虱の記

高熱量低脂質。

【映画評】『アス/Us』あらすじ&感想

ゲット・アウト』で一気にスターダムへとのしあがった、ジョナサン・ピール監督の新作。

実は見ていない前作も黒人青年が不条理かつ非合理な窮地に陥るという映画だった(と聞いている)けれども、今作も中心となるのは黒人の一家。

 

<あらすじ>

主人公であり、母であるアディは、かつて遊園地で迷子となってトラウマをかかえ、失語症を患ったことがある。現在はそれも克服し、家庭を築き、2人の子宝にも恵まれ、幸せな生活を送っていた。

家族とともにバカンスで訪れた別荘地でのこと。夜中、停電が起きたかと思うと、玄関先に4人の家族が手を繋いで立ち尽くしていることに気づく。全身赤い服。呼びかけにも応じない。異様である。夫のゲイブが金属バットを持ち出して威嚇するも、家族はひるむどころかむしろ、扉を押し破って邸宅の中へ。

暖炉の火で明るみに出た赤い家族らの顔は見慣れたものだった。アディの子、ジェイソンは呟く。

「僕たちだ」

 

 

〈感想〉

まずは、面白かった。久しぶりの映画鑑賞ということもあって、とても楽しめたと思う。

じゃあ何が良かったのか、といえばそれは第一に、全く事情が読み込めない非合理的、不条理な展開が恐怖を駆り立てること。自分と全く同じ顔、背格好の人間が、自分を襲ってくる。ただし赤の彼らは顔が半分焼けただれていたり、笑顔が顔に貼り付いていたりで、明らかに怪異的な存在である。何が起きているのか、何が目的なのかがわからない怖さ。

第二に、何かしらの寓意を含むであろう描写や台詞回しが多く、退屈しない。例えば、赤の家族は何者かと問われ、「我々はアメリカ人だ。」と答える。物語の中で重要な役割を持つ、アディが迷子になったアトラクションのサブタイトルが"Find Yourself"である。赤の者たちは基本的には人語を解さない。基本的に赤の者は自分と対となる人物しか殺めていない。などなど、挙げだすとキリがないほどだ。だからこそ、物語の筋を追いながらも頭ではいろいろなことを考えていた。その点が、視聴後のほどよい気だるさを与えてくれたように思う。

最後に、これは附随的であるけれど、ところどころによいユーモアが配されていた。緊張と緩和というか、多すぎず少なすぎないその笑いが、自分に映画を食いつくように見させた一因であるように感じる。

 

恐怖、寓意、ユーモアのバランスのよい佳作。

(だが、久しぶりの映画鑑賞にあたっての随伴者となったN君は、釈然としない部分があったようだ。この映画の恐怖の源泉は、不条理と非合理にあると思うのだが、終盤において、なぜかその点に対するSF的ともいえる理由づけが急に行われたからだ。たしかに、自分もあの説明は不要であったように思うので、N君の煮え切らない感はよくわかる。)

 

先述の通り、寓意が散りばめられているので、その解釈を楽しむこともできるはず。ただし、あくまで今作は「アメリカ映画」であって、当国を肌で感じている人にしかわからないことが多分にある思われる。

 

自分の想像では、テザードの赤い服は人間の獣性を表していて、「教育やラグジュアリーの仮面をひっぺがしちまえば、お前らこんなもんだぞ」ってことを見せたかったのではないかと思う。あるいはそれに絡めて、普段虐げられている人々も、根底では同じ人間で、富や幸福の影の部分なんだ、ということなのかもしれない。